TOPICS絵本

僕の好きな絵本の傾向として、
・奇妙で突飛でかわいいキャラクターが
・見たことのない世界で冒険を繰り広げる
というのがあるのですが、まさにそんな好みをを具現化したようなタイトルと表紙の作品を目にしてしまい、思わず手に取ってしまったのが今回取り上げる「クニョニョのぼうけん」です。

クニョニョのぼうけん
[本]クニョニョのぼうけん/きもとももこ(amazon)
福音館書店 2024.6.20発売 1760円(税込)
ISBN:978-4-8340-8788-8

中央にいる黄色いキャラクターがクニョニョです。作中では"アップリン星に住む宇宙人"と紹介されているので、なにかの動物というわけではないようです。クニョニョは宇宙船に乗っていろいろな星に行くのが大好きだそうで、今回のおはなしも宇宙旅行の最中に不時着した「たまごぼし」という星が舞台になっています。

表紙の牧歌的なようでいて、なんとも言えない雰囲気を感じるイラストに胸騒ぎを感じつつページをめくったのですが、想像以上にぶっ飛んだ世界が繰り広げられていて心を掴まれました。

まず驚いたのが、冒頭のタイトルバックになっている見開きの光景。真っ赤な大地に「アップリン」という果物が木に実っているアップリン星の風景を描いたものなのですが、木に尋常じゃない量の実が等間隔でびっしりと描かれていて、集合体恐怖症でないけどギョッとしてしまいました。
福音館書店のInstagramで冒頭のページが公開されているので、ちょっと見てみてほしいです。

そしてなんと言っても衝撃的なのが、「たまごぼし」の王様の存在です。いろんな要素が渋滞しすぎていてすごいです。こんなむちゃくちゃな設定のキャラクター、なかなかお目にかかれるものではありませんよ。

そんなアバンギャルドな表現が詰まっている本作ですが、忘れてならないのが愛らしいクニョニョの存在です。ページごとにいろんな表情を見せてくれるのが楽しくて、この絵本が純然たる子供向けの作品だったことを思い出させてくれます。冒険の途中で手に入れる「靴」を最後まで履いているのもかわいいです。

今月の新刊エッセイ|きもとももこさん『クニョニョのぼうけん』(ふくふく本棚)

上記の作者、きもとももこさんのエッセイによると、宇宙をテーマにした理由として、自分の好きなものを好きなように描きたいという気持ちがあったとのこと。やはり頭の中のイマジネーションをいちばん大切にしながら創作されているんだなぁと感じました。
タイトルバックの絵にギョッとしたと書きましたが、おそらくこれも、びっくりさせたいというよりも、作者の美的感覚に逆らわず、忠実に描いた結果と考えた方がしっくりくるような気がしました。

この絵本を作るのに5年かかったそうなので、気軽に言えることではないかもですが、ぜひクニョニョが主人公の続編も見てみたいです。次はアップリン星を舞台にしてほしいかな。だって、「たまごぼし」よりよっぽど異世界感がありそうですもん。

クニョニョのぼうけん(出版社の紹介サイト)
 

 

これを機にきもとももこさんの他の作品も読んでみたのでおまけで紹介します。リンク先はAmazonです(「こいぬのくろちゃん」のみ出版社のサイト)。

うずらちゃんのかくれんぼ…デビュー作にしてベストセラーとなった作品。天皇陛下が皇太子時代に撮影したホームビデオの中で、愛子内親王殿下が読んでいたのがこの絵本だったため注目を集めました。風景の中に隠れたうずらちゃんたちを探すお遊び要素もある内容になっています。
ピーのおはなし…もうすぐ赤ちゃんが生まれるお母さんのために、いちごを探す冒険に出た犬のおはなし。
てぶくろチンクタンク…ベンチに忘れられた手袋が、所有者のたけちゃんを探しに行くというちょっと変わったおはなし。細かく描き込まれたリスが大量に出てくるシーン、迫力すごいです。
つるちゃんとクネクネのやまのぼり…あざらしのつるちゃんが、迷子になったナメクジのクネクネを家に届けるために、干からびそうになりながら山登りをするという、こちらもかなり変わった設定のおはなし。
うずらちゃんのたからもの…うずらちゃんの続編。こちらはお遊び要素はなく、純粋な母と子のストーリーとなっています。
かえるくんのおさんぽ…かえるくんがお散歩中にボールを穴に落としてしまったところから始まるおはなし。これまでの絵本に比べて絵柄に独創的な表現がやや増えています。
こいぬのくろちゃん…「こどものとも 0.1.2.」として刊行された作品。くろちゃんのいろんな表情がテンポよく楽しめます。前述のピーもくろちゃんも作者の飼い犬がモデルになっているそうです。
やもりのやもちゃん…Kindleで公開されている作品。家を探しているやもちゃんが変な住人ばかりが住む家を訪ねるおはなし。表紙からは想像できないような風変わりな内容になっています。子供が読んだら気味悪がりそう(笑)。

TOPICS絵本

久しぶりに絵本の紹介をしますよ。

がっぴちゃん
[本]がっぴちゃん/高山一実・文、みるく・画(amazon)
KADOKAWA 2024.2.21発売 1540円(税込)
ISBN:978-4041146613

本屋さんでたまたま見かけて、そのかわいい表紙に一目惚れして手に取りました。作者の名前を見て、どこかで見たことあるようなと思ったら、僕の大好きなテレビ番組『オールスター後夜祭』で有吉弘行さんとともにMCをされている高山一実さんじゃないですか。こういう活動もされているとは知りませんでした。

ストーリーは、5歳になったがっぴちゃんが母親に言われて「ちきゅうさん」という友達を探しに行くという内容。表紙のがっぴちゃんもかわいいけど(上の画像だとなぜか出ていないけど、目の間にある影がいい)、中の絵もむちゃくちゃかわいくて心を掴まれました。特に海のシーンの柔らかそうな波の表現が凄くきれいで素敵です。物語的には最後の終わり方がちょっと唐突に感じましたが、シリーズ化の構想もあるようなので更なるがっぴちゃんの冒険もぜひ見てみたいです。

[本]がっぴちゃん(出版社の紹介ページ)
高山一実 OFFICIAL SITE(公式サイト)
みるく(公式サイト)…プロフィールによるとSNSを中心に活動するイラストレーターさんとのことです。

TOPICS絵本

表紙を見て気になって読んでみたらすごく面白かった絵本の紹介です(もたもたしてたら発売からかなり経ってしまった!)。

[本]木のロボットと丸太のおひめさまのだいぼうけん/トム・ゴールド
[本]木のロボットと丸太のおひめさまのだいぼうけん/トム・ゴールド・作、金原瑞人・訳(amazon)
ほるぷ出版 2021.11.9発売 1760円(税込)
ISBN:978-4593102709

表紙に描かれているのはタイトルにもなっている木のロボットと、丸太のおひめさま。この物語の主人公です。子供のいない王様とお妃様が、発明家と森の魔女に頼んで作ってもらった子供がこの2人なんですね。

ある日、2人はひょんなことから離ればなれになってしまい、タイトルにもあるように大冒険を繰り広げることになるんですが、これがね、いいんですよ。最初は絵に惹かれて手に取ったのに、物語がすごくおもしろいんです。

特にいいなと思ったのが、木のロボットと丸太のおひめさまが交互に冒険することになるところ。互いに相手のこと想いながら一生懸命頑張る姿が胸に来ます。

あと途中、木のロボットの行動に「え、それでいいの?」と、ちょっと不安になってしまうシーンがあるんですよね。これって後々、よくないことが起こる伏線なんじゃ……と思っていたら、それが単なる思い過ごしだったことが割とあっさり判明するんです。そして同時に木のロボットの、妹(丸太のおひめさま)への強い愛情を感じることになるという……。この展開、ずるいわー。

作者のトム・ゴールドさんは「ガーディアン」や「ニューヨーカー」といった有名な新聞や雑誌で活躍するイラストレーターとのことで、絵は緻密に描き込まれていて、かつ無駄がなく、どのページもずっと見てられます。こんな素敵な絵と物語を描けるの、すごいなぁ。もっと作者の方のことを知りたくなりました。

[本]木のロボットと 丸太のおひめさまの だいぼうけん(出版社の紹介ページ)…「トム・ゴールドさんから日本の読者のみなさんへ」というページでは作者の方から日本の読者へ向けてのメッセージが公開されています。
TOMGAULD.COM(作者の公式サイト)
[本]月の番人/トム・ゴールド・作、古屋美登里・訳(amazon)…2016年発表の漫画作品。日本では絵本と同時期の2021年9月に発売されました。過疎化が進む月のコロニーで業務に当たる警察官の日常と静寂が淡々と描かれています。日本では他に『ゴリアテ』という作品が出版されています。

TOPICS絵本

久しぶりに絵本を紹介。くまのぬいぐるみが主人公の作品です。

くまのテセウス
[本]くまのテセウス/作・かねこあつし、かねこやすこ(amazon)
パイ インターナショナル 2020.1.17発売 1700円+税
ISBN:978-4-7562-5300-2

ガラクタを背景に虚空を見つめる彼がこの物語の主人公、テセウスです。

かつては女の子と仲良く暮らしていたテセウスですが、今はゴミ処理場で暮らしています。なぜ捨てられたのか悩んでいる時、仲間(?)の扇風機から、それはおまえがボロっちいうえに大量生産の安物だからだと告げられます。更に、特別な存在になるよう煽られ、ほころびていた左腕を自ら引きちぎって、落ちていたロボットのような腕に付け替えてしまうのでした。

特別になった高揚感からか、テセウスの"特別欲"は止められなくなってしまい、右腕は伸び縮みするアームに、足は車輪に、更には胴体、果ては頭まで取り替えて、すっかりロボットのような見た目になってしまいます。

以上が冒頭の展開なのですが、ここまでで僕はなかなかの衝撃を受けてしまいました。だって、再び持ち主に愛されたいから、ぬいぐるみが自分の意思で体を引きちぎってどんどん自己改造してしまうんですよ。しかも、ふわふわのぬいぐるみが好きだった女の子がロボットみたいな見た目に変わり果てたテセウスを見たらどう思うでしょうか。「かっこよくなったね!」なんて言ってすんなり受け入れてもらえる未来はまったく想像できないばかりか、気づいてもらえるかすら怪しいです。どう考えても悲劇的な結末しか見えません。

実はテセウスという名前は"テセウスの船"という哲学用語から来ているようなんですね。ある一隻の船があり、部品が朽ちると新しい部品に交換していくんですが、最終的にすべての部品が入れ替わった時、この船は元の船と呼べるのか、という思考実験に使われる用語です。ちょうど同名の漫画を原作にしたドラマが放送されているのでご存じの方も多いのかもしれません。

まさかそれをぬいぐるみに置き換えて描いてしまうとは。

くまのテセウスはその名の示す通り、自分の意思とは言え最初のテセウスと言えるのかよく分からない存在になってしまいました。それでも女の子が今でも自分のことを思っているかもしれないと信じて旅に出る決意をします。テセウスは求めていた幸せを手に入れることができるんでしょうか。それはぜひ本を手に取って確かめてみてほしいです。

[本]くまのテセウス(出版社の紹介ページ)
Blood Tube Inc.…作者の金子敦さんと金子泰子さんが主宰するデザイン事務所。

CLIPS絵本,雑誌

絵本雑誌『MOE』で毎年1月発売号にて発表されている「MOE 絵本屋さん大賞」をご存じでしょうか。全国の絵本専門店・書店の児童書売り場担当者へアンケートを実施し、1年間に発売された絵本の中から"おすすめしたい絵本"に選ばれた30冊をランキング形式で発表している人気企画です。

今年発表分でちょうど10周年を迎え、本日からは雑誌創刊40周年を記念した展覧会も開催されます。そこで、僕なりに絵本屋さん大賞の10年を振り返ってみようと思い立ち、10年分の得票数(ポイント)を集計して、「作家別得票数ランキング」という謎のランキングを作成してみました。こういうお遊び企画は超久しぶりですね。

普段絵本なんて読まない人もこのランキングを見れば、この10年にどんな絵本作家さんが注目を集めたのか一望できるかもしれません。

※ランキングについての注意事項
このランキングは、「MOE 絵本屋さん大賞」の各年30位までに入っている絵本のポイントを作家別に集計し、多い順に並べたものです。共作の場合は、それぞれの作家に同数のポイントを加算しています。ただし、訳者については今回は無視しました。
また、年々アンケート対象者数が増えているため年ごとに票の母数が違っています。当初は1票の格差を修正するための計算をした上でランキングにする予定でしたが、そうすると逆に古いランキングの影響が強めに出てしまったので、ポイントには特に手を加えることなく単純に加算することにしました。
今を起点にしてこの10年をふんわり振り返る、といった趣旨のランキングと思ってもらえると幸いです。
※表紙画像のリンク先はAmazonです。

作家別得票数ランキング

1位 ヨシタケシンスケ(2641P)

りんごかもしれない
りんごかもしれない(2013年1位
ぼくのニセモノをつくるには(2014年9位)
りゆうがあります(2015年1位
ふまんがあります(2015年24位)
もうぬげない(2016年1位
このあと どうしちゃおう(2016年2位
なつみはなんにでもなれる(2017年1位
つまんない つまんない(2017年3位

栄えある1位はヨシタケシンスケさんでした! 上の注意事項のところにごちゃごちゃ書いてますが、どういう方法で集計しても圧倒的な差でヨシタケさんが1位でした。これはMOE読者なら余裕で予想できる結果です。だってここ数年ずっと1位ですもんね。強すぎです。
デビュー作の『りんごかもしれない』がいきなり1位を獲得しています。それほど衝撃的でしたよね、この作品は。僕もこの最初に読んだときは思わず「やられた!」って思いましたもん。まあ、何にもやってない奴にそんなこと思われたくないでしょうけど……。ヨシタケさんの絵本って発想がすごいんですよね。新作に触れるたびに、まだ誰もやってなかったことがこんなにあったんだと驚かされます。

2位 工藤ノリコ(1360P)

ノラネコぐんだん パンこうじょう
たこきちとおぼうさん(2011年29位)
ペンギンきょうだい ふねのたび(2011年30位)
ピヨピヨ ハッピーバースデー(2012年21位)
ノラネコぐんだん パンこうじょう(2013年4位)
ノラネコぐんだん きしゃぽっぽ(2014年2位
ノラネコぐんだん おすしやさん(2015年3位
ノラネコぐんだん あいうえお(2017年5位)
ノラネコぐんだん そらをとぶ(2017年7位)

2位は「ノラネコぐんだん」シリーズが人気の工藤ノリコさんです。MOE読者にはおなじみの作家さんですね(というかここに出てくる作家さんはみんなおなじみか)。工藤さんの絵本の特徴はなんといってもその個性的な見た目のキャラクターたち。"ぶさかわいい"なんて呼ばれて愛されています。そんなキャラたちのおかげか絵本だけど漫画的な親しみやすさもあって楽しいです。

3位 tupera tupera(1054P)

パンダ銭湯
ぼうし とったら(2012年5位)
しろくまのパンツ(2013年3位
パンダ銭湯(2013年6位)
うんこしりとり(2014年3位
おばけだじょ(2015年8位)
おならしりとり(2016年12位)
あかちゃん(2016年15位)
わくせいキャベジ動物図鑑(2017年20位)

tupera tupera(ツペラ ツペラ)は亀山達矢さんと中川敦子さんの2人で活動しているユニット。その活動範囲は絵本だけにとどまらず多岐にわたっています。そんな2人だからか、手掛ける絵本も枠にとらわれないアイデアと驚きに溢れているんですね。
パンダの衝撃的な秘密が発覚する『パンダ銭湯』や、定番のおばけ絵本かと思ったら読み進めるにつれて意外な事実を目の当たりにする『おばけだじょ』など、一癖も二癖もあるアイデアが込められています。絵本ごとにがらっと作風を変えているのにどの絵本もtupera tuperaらしさを感じてしまうのがすごいです。

4位 鈴木のりたけ(863P)

とんでもない
しごとば(2009年3位
続・しごとば(2010年16位)
ぼくのおふろ(2010年25位)
しごとば 東京スカイツリー(2011年6位)
おえかきしりとり(2014年13位・共作)
たべもんどう(2015年7位)
す~べりだい(2015年10位)
とんでもない(2016年4位)

綿密な取材を元にいろんなお仕事の現場を描き込んだ『しごとば』シリーズが人気の、鈴木のりたけさんが4位にランクイン。他にも『す~べりだい』など、読み聞かせで盛り上がりそうな遊び心満載の作品も人気です。
そんな鈴木さんの絵本から感じるのは、絵へのこだわり。絵本が絵にこだわるのは当たり前のことではありますが、素人目で見ても何か違う凄みを感じるというか。
ファーストインパクトだったり、繰り返しの鑑賞に堪えうる仕掛けだったり、きっといろんなことを考え尽くされた上で描かれているんでしょうね。

5位 長谷川義史(731P)

ぼくがラーメンたべてるとき
ぼくがラーメンたべてるとき(2008年6位)
いいからいいから2(2008年12位)
てんごくのおとうちゃん(2009年12位)
いいからいいから3(2009年15位)
だじゃれ日本一周(2010年3位
いいからいいから4(2010年18位)
おかあちゃんがつくったる(2012年12位)
シバ犬のチャイ(2013年11位・絵)
へいわってすてきだね(2014年1位・絵)

僕がはじめて触れた長谷川義史さんの絵本は『ぼくがラーメンたべてるとき』。表紙を見て「うわー、楽しそう!」と思いページをめくると……、まんまとやられてしまいました(笑)。
2014年1位の『へいわってすてきだね』は当時小学1年生だった安里有生さんの詩を絵本化した作品。この2作は当たり前に存在しているわけじゃない平和の大切さについて考えさせられます。

6位 なかやみわ(656P)

どんぐりむらのほんやさん
くろくんとなぞのおばけ(2009年11位)
どんぐりむらのぼうしやさん(2010年6位)
どんぐりむらのおまわりさん(2012年20位)
どんぐりむらのどんぐりえん(2013年22位)
どんぐりむらのほんやさん(2014年29位)
そらまめくんのあたらしいベッド(2015年5位)
やさいのがっこう とまとちゃんのたびだち(2016年9位)
くろくんとちいさいしろくん(2017年19位)

6位は人気シリーズを多数手掛ける、なかやみわさんがランクイン。なかやさんは絵本作家になる前はサンリオでデザイナーのお仕事をされていたそうです。そらまめくんも元々はサンリオ時代に社内コンペ用として生み出したキャラが元になっているんだとか。なんとなくキャラクターに親しみを感じてしまうのはそのせいなのかな?
なかやさんの絵本は横長の判のものが多くて、絵もそんな空間を生かした作りになっていています。画面いっぱいにかわいい絵が広がっていて、思わず絵本の中の世界で暮らしたくなってしまいます。

7位 いわいとしお(652P)

100かいだてのいえ
100かいだてのいえ(2008年5位)
ちか100かいだてのいえ(2010年11位)
うみの100かいだてのいえ(2014年4位)
ゆびさきちゃんのだいぼうけん(2016年13位)
そらの100かいだてのいえ(2017年10位)

いわいとしおさんはこの10年ですっかり人気絵本作家になっちゃいましたね。当サイトでは岩井さんのことを「ウゴウゴ・ルーガ」や「エレクトロプランクトン」などのキャラクターデザイナーとしてその活動をちょくちょく追っかけていたので、『100かいだてのいえ』も発売直後に速攻で買いに行って紹介したのを覚えています。斬新で楽しい絵本だとは思ったけど、ここまで大人気になるとは予想できなかったなぁ。

8位 酒井駒子(650P)

くまとやまねこ
くまとやまねこ(2008年1位・絵)
BとIとRとD(2009年2位
はんなちゃんがめをさましたら(2013年24位)
しろうさぎとりんごの木(2014年16位・絵)
まばたき(2015年10位・絵)
ヨクネルとひな(2016年17位・絵)

酒井駒子さんは普段絵本を読まない人にもファンが多い作家だと思います。黒が印象的な独特の世界観。本を開くと心の奥底に沈んだまま忘れていた感情が蘇ってきます。

9位 谷川俊太郎(596P)

かないくん
きもち(2008年16位・文)
こっぷ(2008年22位・文)
むかしむかし(2010年23位・文)
かないくん(2014年7位・文)
せんそうしない(2015年22位・文)
生きる(2017年6位・文)

詩人の谷川俊太郎さんが9位にランクイン。『かないくん』は漫画家の松本大洋さんが絵を手掛けて話題になりました。2008年にランクインの『きもち』と『こっぷ』は1970年代に刊行された作品の復刊。人の生死について問いかける作品からユーモア溢れる作品まで幅が広くて息が長くて、今なお現役で活動されていて……。すごいです。

10位 ヒグチユウコ(588P)

いらないねこ
ふたりのねこ(2015年22位)
せかいいちのねこ(2016年7位)
すきになったら(2016年16位)
いらないねこ(2017年9位)

ヒグチユウコさんもMOE読者にはおなじみの作家さんです。繊細に描き込まれた個性豊かな猫たちがいる中で、独特の表情で佇むぬいぐるみのニャンコ。その重苦しいまぶたの奥の瞳には、どんな世界が映っているのでしょうか。

11位 荒井良二(548P)

あさになったのでまどをあけますよ
オツベルと象(2008年20位・絵)
あさになったのでまどをあけますよ(2012年1位
どーしたどーした(2014年24位・絵)
きょうはそらにまるいつき(2016年11位)
そりゃあもういいひだったよ(2016年26位)

荒井良二さんの絵本は、溢れるイマジネーションをそのままぎゅっと本に閉じ込めたかのような、フレッシュな魅力が特徴です。
2012年1位の『あさになったのでまどをあけますよ』は何気ないいつもの日常こそがかけがえのない大切な瞬間なんだと気づかせてくれます。

12位 かがくいひろし(491P)

だるまさんが
だるまさんが(2008年4位)
だるまさんの(2008年18位)
おしくら・まんじゅう(2009年8位)
だるまさんと(2009年23位)
まくらのせんにん そこのあなたの巻(2010年5位)
おふとんかけたら(2010年8位)
がまんのケーキ(2010年28位)
うめじいのたんじょうび(2016年10位)

「だるまさん」シリーズでおなじみのかがくいひろしさんがランクイン。この絵本、面白いですよね! 最初手に取ったときびっくりしましたもん。
この絵本について疑問なのが、本当に10年前までは存在していなかったの!? という部分。昭和からのベストセラーと言われても全然疑わないくらいの謎の普遍性があります。なんなんですかねこれ。たぶん100年後の子供たちにも読み継がれていると思います。

13位 西村敏雄(449P)

うんこ!
バルバルさん(2008年7位・絵)
うんこ!(2010年1位・絵)
どうぶつサーカスはじまるよ(2010年19位)
わたしはあかねこ(2011年25位・絵)
アリのおでかけ(2012年10位)
アントンせんせい(2013年25位)
ふたごのウィンナー(2014年30位・絵)

西村敏雄さんはデビュー作の『バルバルさん』がランクインして以来、コンスタントに上位へ作品を送り込んでいる絵本屋さん大賞の常連作家です。
西村さんの絵本に共通するのは、なんとも言えないキャラクターの表情。いいですね。飾り気はないけどどこか引っかかる……、そんな絵に惹かれます。

14位 トーベン・クールマン(438P)

リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険
リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険(2015年3位
アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険(2017年10位)

14位はトーベン・クールマンさん。ここに来てはじめての外国人作家の登場です。
もしあの偉人よりも先に空を飛ぶ偉業を小さなネズミが達成していたら……? そんな大冒険が壮大なスケールで描かれています。小さな生き物の視点で描かれた緻密な背景には思わず息をのみます。

15位 minchi(419P)

いっさいはん
いっさいはん(2017年2位

minchi(ミンチ)さんの『いっさいはん』は元々Twitter上で「1歳半ぐらいの子供の行動」という文を添えてUPしたイラストが反響を呼び書籍化されるという、今どきの経緯で生まれた絵本です。書籍になることで更に反響を呼びデビュー作にしてベストセラーになりました。
絵をよく見るとところどころに歯のキャラクターが描かれているんですが、今月21日にはこのキャラをフィーチャーした『にゅうしちゃん』が発売予定です。

16位 加藤久仁生、平田研也(407P)

つみきのいえ
つみきのいえ(2008年21位、2009年1位

『つみきのいえ』の加藤久仁生さん、平田研也さんコンビがランクイン。これは同名の短編アニメーション映画を絵本として再構築した作品です。映画は日本の作品としては初めてアカデミー短編アニメーション賞を受賞した作品としても知られています。絵本屋さん大賞としては唯一2年にまたがってランクインしている作品でもあります。
加藤さんはもう絵本は描かないのかな? また描いてほしいなと思います。

18位 ジョン・クラッセン(375P)

どこいったん
どこいったん(2012年2位
サムとデイブ、あなをほる(2015年20位・絵)
みつけてん(2017年13位)
サンカクさん(2017年30位・絵)

18位はジョン・クラッセンさん。2人の外国人作家の登場です。長谷川義史さんが訳を担当した「ぼうしシリーズ」(『どこいったん』『ちがうねん』『みつけてん』の3部作)や『サンカクさん』は、スタイリッシュな絵柄にミスマッチすぎるコテコテ大阪弁が乗り、謎のグルーヴ感が醸し出されています。

19位 町田尚子(373P)

ネコヅメのよる
いるの いないの(2012年3位・絵)
ネコヅメのよる(2016年6位)

町田尚子さんの絵は空気感が素晴らしいです。京極夏彦さんとの共作、『いるの いないの』はその才能がいかんなく発揮された一作。ページをめくるたび、日本家屋のどこかひんやりとしたあの感じが体にまとわりついてきます。そしてあのラスト。「ヒエッ」と声が出そうになりましたよ。
『ネコヅメのよる』は猫のイヤーな顔を大胆に配した表紙のインパクトがすごいです。でも本物の猫もよくこういう顔しますよね。

20位 大森裕子(340P)

へんなかお
へんなかお(2011年4位)
へんなところ(2012年19位)
へんなおばけ(2012年29位)
なにからできているでしょーか?(2014年18位)
おすしのずかん(2017年12位)

20位には大森裕子さんがランクイン。『へんなかお』は動物たちのへんなかおが次々に出てくる楽しい絵本。『へんなところ』、『へんなおばけ』とシリーズ化されました。『なにからできているでしょーか?』と『おすしのずかん』はどちらも食べ物図鑑的な絵本で、普段食べているものについての理解を楽しみながら深めることができる作品です。

以上、上位20人の作家さんの紹介でしたー。

出版社別ランキング

これはおまけで、別の角度から10年を振り返ってみようということで、出版社別にランクインしている絵本の冊数をランキングにしてみました。

1位 福音館書店(33冊)
1位 ブロンズ新社(33冊)
3位 白泉社(29冊)
4位 偕成社(22冊)
5位 講談社(20冊)
6位 岩崎書店(16冊)
7位 BL出版(14冊)
8位 学研プラス(8冊)
8位 PHP研究所(8冊)
8位 あすなろ書房(8冊)
8位 教育画劇(8冊)
12位 アリス館(7冊)
12位 童心社(7冊)
12位 ポプラ社(7冊)
15位 光村教育図書(6冊)
15位 絵本館(6冊)
17位 クレヨンハウス(5冊)
17位 文溪堂(5冊)
19位 WAVE出版(4冊)
19位 佼成出版社(4冊)
19位 イースト・プレス(4冊)

集計する前から「1位は福音館書店なんだろうな~」とは思っていて、当たってはいたんですが、ブロンズ新社も同率1位というのには驚きました。ブロンズ新社は今までにない面白い絵本を出版する会社として注目はしていましたが、こんなに打率高かったんですね。すごいです。
3位の白泉社はMOEの発行元。4位の偕成社は元・MOEの発行元です。5位には講談社がランクインしていますが、いわゆる大手出版社では唯一のランクインなんですね。他の大手出版社はあまり絵本には力を入れていないんでしょうか。もっと頑張ったらいいのにな。

CHARA PITで紹介した絵本

最後に当サイトではこの10年どんな絵本を紹介していたか、いくつか見てみたいと思います。ここではいわゆるキャラクター絵本はよく紹介していたんですが、絵本屋さん大賞に出てくるようなちゃんとした絵本は気まぐれで取り上げている程度なので、そんなに多くはないです。

[本]まるさんかくぞう/及川賢治、竹内繭子(2008年19位)
[本]5つごモンスターがやってきた!/たちもとみちこ
[本]ヘンなあさ/笹公人・作、本秀康・絵
[本]ゆきがふるよ ねこがいるよ/ごうだつねお
[本]コんガらガっち あっちこっち すすめ!の本/ユーフラテス
[本]もぐらバス/佐藤雅彦+うちのますみ(2010年2位)
[本]みんなであそぶひ/天明幸子
[本]りすでんわ/高橋和枝
[本]ほげちゃん/やぎたみこ(2011年3位)
[本]ともだちぱんだ/やましたこうへい

こうして見ると別の分野で活躍している人の作品を紹介することが多いですね。この中で特に印象に残っている作品を挙げるとすれば、やぎたみこさんの『ほげちゃん』でしょうか。本屋さんで表紙を見たときは衝撃でした。「なんだこのキャラは!?」と。
ここ数年はサイトの更新をサボり気味だったので、絵本も全然紹介できていませんでしたが、これを機にまた取り上げていければと思います。

MOE(公式サイト)…絵本屋さん大賞は毎年2月号(1月発売号)で発表されています。2018年2月号(amazon)には過去10年を振り返る企画ページもあるのでバックナンバーもチェックしてみてくださいね。
MOE創刊40周年記念 島田ゆか・酒井駒子・ヒグチユウコ・ヨシタケシンスケ・なかやみわ 5人展…冒頭でも触れましたが、本日から松屋銀座にてMOE40周年を記念した展覧会が開催されます(5/7まで)。島田ゆかさんは『バムとケロのもりのこや』で第4回の1位を獲得していましたが、今回の集計方法ではランクから漏れてしまいました。寡作な方には不利な集計でしたね…。

[雑誌]MOE 2011年12月号「スージー・ズーのやさしい庭へ」(2011.11.4)

TOPICS絵本

2作品発売された「まじかるきのこさん」に続いて、本秀康さんの新しい絵本が発売されています。

ちきゅうのへいわをまもったきねんび
[本]ちきゅうのへいわをまもったきねんび/本秀康(amazon)

岩崎書店 2012.3.1発売 1365円
ISBN:978-4-265-08107-3

今回の作品は表紙とタイトルを見ておわかりのとおり、本さんが漫画でやってきた世界観を絵本で表現したものになっています。お決まりのパターンをひねりなく絵本という新しいフィールドに収めていったという趣向です。

この絵本を読んで思ったのは、「本さんって、もう漫画を描かないってわけじゃないんだよね?」という疑問。妙に絵本が板に付きつつあるのが気になるんですよね~。この路線を進めていって、もう何作か発表しそうな気がします。

絵本も好きだけど、本さんと言えばやっぱり漫画! そろそろ読みたいなぁって思っちゃうのでした。

[本]ちきゅうのへいわをまもったきねんび(出版社の紹介ページ)
[本]ちきゅうのへいわをまもったきねんび(amazon)…表紙は入校後に修正したそうなんですが、amazonではその修正前のものが掲載されています。男の子がちょっと違いますね(※2020.4.30追記:現在は修正されています)。

[本]まじかるきのこさん(amazon)
[本]まじかるきのこさん きのこむらはおおさわぎ(amazon)
ついでに「まじかるきのこさん」もリンク。評判もいいみたいで、グッズ化もされています。

おもしろ帝国 本秀康公認ファンサイト

[本]おしりとり/本秀康(2010.8.27)