僕の好きな絵本の傾向として、
・奇妙で突飛でかわいいキャラクターが
・見たことのない世界で冒険を繰り広げる
というのがあるのですが、まさにそんな好みをを具現化したようなタイトルと表紙の作品を目にしてしまい、思わず手に取ってしまったのが今回取り上げる「クニョニョのぼうけん」です。
[本]クニョニョのぼうけん/きもとももこ(amazon)
福音館書店 2024.6.20発売 1760円(税込)
ISBN:978-4-8340-8788-8
中央にいる黄色いキャラクターがクニョニョです。作中では"アップリン星に住む宇宙人"と紹介されているので、なにかの動物というわけではないようです。クニョニョは宇宙船に乗っていろいろな星に行くのが大好きだそうで、今回のおはなしも宇宙旅行の最中に不時着した「たまごぼし」という星が舞台になっています。
表紙の牧歌的なようでいて、なんとも言えない雰囲気を感じるイラストに胸騒ぎを感じつつページをめくったのですが、想像以上にぶっ飛んだ世界が繰り広げられていて心を掴まれました。
まず驚いたのが、冒頭のタイトルバックになっている見開きの光景。真っ赤な大地に「アップリン」という果物が木に実っているアップリン星の風景を描いたものなのですが、木に尋常じゃない量の実が等間隔でびっしりと描かれていて、集合体恐怖症でないけどギョッとしてしまいました。
福音館書店のInstagramで冒頭のページが公開されているので、ちょっと見てみてほしいです。
そしてなんと言っても衝撃的なのが、「たまごぼし」の王様の存在です。いろんな要素が渋滞しすぎていてすごいです。こんなむちゃくちゃな設定のキャラクター、なかなかお目にかかれるものではありませんよ。
そんなアバンギャルドな表現が詰まっている本作ですが、忘れてならないのが愛らしいクニョニョの存在です。ページごとにいろんな表情を見せてくれるのが楽しくて、この絵本が純然たる子供向けの作品だったことを思い出させてくれます。冒険の途中で手に入れる「靴」を最後まで履いているのもかわいいです。
→今月の新刊エッセイ|きもとももこさん『クニョニョのぼうけん』(ふくふく本棚)
上記の作者、きもとももこさんのエッセイによると、宇宙をテーマにした理由として、自分の好きなものを好きなように描きたいという気持ちがあったとのこと。やはり頭の中のイマジネーションをいちばん大切にしながら創作されているんだなぁと感じました。
タイトルバックの絵にギョッとしたと書きましたが、おそらくこれも、びっくりさせたいというよりも、作者の美的感覚に逆らわず、忠実に描いた結果と考えた方がしっくりくるような気がしました。
この絵本を作るのに5年かかったそうなので、気軽に言えることではないかもですが、ぜひクニョニョが主人公の続編も見てみたいです。次はアップリン星を舞台にしてほしいかな。だって、「たまごぼし」よりよっぽど異世界感がありそうですもん。
→クニョニョのぼうけん(出版社の紹介サイト)
これを機にきもとももこさんの他の作品も読んでみたのでおまけで紹介します。リンク先はAmazonです(「こいぬのくろちゃん」のみ出版社のサイト)。
・うずらちゃんのかくれんぼ…デビュー作にしてベストセラーとなった作品。天皇陛下が皇太子時代に撮影したホームビデオの中で、愛子内親王殿下が読んでいたのがこの絵本だったため注目を集めました。風景の中に隠れたうずらちゃんたちを探すお遊び要素もある内容になっています。
・ピーのおはなし…もうすぐ赤ちゃんが生まれるお母さんのために、いちごを探す冒険に出た犬のおはなし。
・てぶくろチンクタンク…ベンチに忘れられた手袋が、所有者のたけちゃんを探しに行くというちょっと変わったおはなし。細かく描き込まれたリスが大量に出てくるシーン、迫力すごいです。
・つるちゃんとクネクネのやまのぼり…あざらしのつるちゃんが、迷子になったナメクジのクネクネを家に届けるために、干からびそうになりながら山登りをするという、こちらもかなり変わった設定のおはなし。
・うずらちゃんのたからもの…うずらちゃんの続編。こちらはお遊び要素はなく、純粋な母と子のストーリーとなっています。
・かえるくんのおさんぽ…かえるくんがお散歩中にボールを穴に落としてしまったところから始まるおはなし。これまでの絵本に比べて絵柄に独創的な表現がやや増えています。
・こいぬのくろちゃん…「こどものとも 0.1.2.」として刊行された作品。くろちゃんのいろんな表情がテンポよく楽しめます。前述のピーもくろちゃんも作者の飼い犬がモデルになっているそうです。
・やもりのやもちゃん…Kindleで公開されている作品。家を探しているやもちゃんが変な住人ばかりが住む家を訪ねるおはなし。表紙からは想像できないような風変わりな内容になっています。子供が読んだら気味悪がりそう(笑)。