[本]くまのテセウス/作・かねこあつし、かねこやすこ
久しぶりに絵本を紹介。くまのぬいぐるみが主人公の作品です。
[本]くまのテセウス/作・かねこあつし、かねこやすこ(amazon)
パイ インターナショナル 2020.1.17発売 1700円+税
ISBN:978-4-7562-5300-2
ガラクタを背景に虚空を見つめる彼がこの物語の主人公、テセウスです。
かつては女の子と仲良く暮らしていたテセウスですが、今はゴミ処理場で暮らしています。なぜ捨てられたのか悩んでいる時、仲間(?)の扇風機から、それはおまえがボロっちいうえに大量生産の安物だからだと告げられます。更に、特別な存在になるよう煽られ、ほころびていた左腕を自ら引きちぎって、落ちていたロボットのような腕に付け替えてしまうのでした。
特別になった高揚感からか、テセウスの"特別欲"は止められなくなってしまい、右腕は伸び縮みするアームに、足は車輪に、更には胴体、果ては頭まで取り替えて、すっかりロボットのような見た目になってしまいます。
以上が冒頭の展開なのですが、ここまでで僕はなかなかの衝撃を受けてしまいました。だって、再び持ち主に愛されたいから、ぬいぐるみが自分の意思で体を引きちぎってどんどん自己改造してしまうんですよ。しかも、ふわふわのぬいぐるみが好きだった女の子がロボットみたいな見た目に変わり果てたテセウスを見たらどう思うでしょうか。「かっこよくなったね!」なんて言ってすんなり受け入れてもらえる未来はまったく想像できないばかりか、気づいてもらえるかすら怪しいです。どう考えても悲劇的な結末しか見えません。
実はテセウスという名前は"テセウスの船"という哲学用語から来ているようなんですね。ある一隻の船があり、部品が朽ちると新しい部品に交換していくんですが、最終的にすべての部品が入れ替わった時、この船は元の船と呼べるのか、という思考実験に使われる用語です。ちょうど同名の漫画を原作にしたドラマが放送されているのでご存じの方も多いのかもしれません。
まさかそれをぬいぐるみに置き換えて描いてしまうとは。
くまのテセウスはその名の示す通り、自分の意思とは言え最初のテセウスと言えるのかよく分からない存在になってしまいました。それでも女の子が今でも自分のことを思っているかもしれないと信じて旅に出る決意をします。テセウスは求めていた幸せを手に入れることができるんでしょうか。それはぜひ本を手に取って確かめてみてほしいです。
→[本]くまのテセウス(出版社の紹介ページ)
→Blood Tube Inc.…作者の金子敦さんと金子泰子さんが主宰するデザイン事務所。
ディスカッション
コメント一覧
お久しぶりです。
今回の「くまのテセウス」という本を実際に読んでみました。(理由としては、私自身が愛着のあるものを整理する際に明確な基準無しで分別しているので、他の人はどのような思いで判断しているのか知れるかな?と考えたからです。)
※ここから先は、作品のネタバレになっているので注意してください!!
内容としては、率直な感想としてとても面白いお話であったと同時に、何度も読み返したくなるお話ではないな・・・というのが正直な感想です。
テセウスは、最初から最後まで自身の思いに従順でひた向きに行動していました。要所要所で区切られている場面毎にテセウスは自身の一番願っていることを達成しようと行動する様は物語としてうまく出来ているな・・・という風に感じました。
また、ぬいぐるみでも変化後でも、顔の表情をみるだけでどのような心情なのかがすんなりと入ってくる絵柄はとても読みやすかったです。
ただ、今回私の最も知りたかった「持ち主はなぜテセウスを捨てたのか」、「(予測だったのですが)テセウスを見て持ち主は何を感じ、どういう行動をとるのか」という点を知ることが出来なかったのが少しだけ残念でした。それと、テセウスが女の子ではなく長い間過ごしてきた者たちの元に戻りたいと思う箇所が、読んでいてとても記憶に残りました。
私は、最後のねずじいの問いかけに対しテセウスは「持ち主の願いでもある、元居た箇所へ戻りたい」という自分の第一の感情を押し殺し、ねずじい達の「テセウス達と一緒にいたい」という他人の心情を優先した・・・という風に感じたのですが、Pitさんはどのように感じたでしょうか?
拙い文章になってしまいまい申し訳ありませんが・・・
今回の様なキャラクターや絵本の紹介をして頂けると自身が知ることがなかったであろう作品を知ることが出来るのでとても参考になります。(気が向いたらで構わないので(・∀・;))
これからも体調に気を付けてまた、ブログを書くということ自体がストレスにならない程度にゆったりと更新して頂けると嬉しいです。
ネルミンさん、お久しぶりです。
「くまのテセウス」はたまたま書店で見かけて、
表紙に描かれた茫然自失としたくまの表情に惹かれて
手に取った作品なのですが、
どうしてもブログでちゃんと紹介したいと思ったので
久々の更新となりました。
(その割にあまり上手く書けなかったですが…)
ネタバレになるので本文では触れませんでしたが、
この物語の最大の見せ場は
やっぱりあのテセウスの選択にあると思っています。
以下はあくまで自分の中で感じたことですが…。
※この先ネタバレありです。
テセウスは女の子との生活という、
長年想い続けていた夢を叶えるチャンスを
自ら棒に振ってしまいます。
そういう意味では、自分の感情を押し殺した選択を
取ったと言えなくもないですが、
実際には自分の気持ちに正直になった結果、
選んだと思っています。
テセウスにとって、長年の夢よりもねずじい達との生活が
大切で大きなものになっていたんだなぁと。
女の子とのことは誤解が解けただけで
十分と思ったのかもしれません。
ただ、この終盤の展開、
表現的には好みの分かれるシーンでもあると思います。
この作品について
他の人の感想も聞いてみたいなとは思っていましたが
わざわざ実際に本を手に取って、感想まで書き込んでもらえるなんて
思っていなかったので嬉しいです。
ありがとうございました。
愛着のあるものを整理する…というと、
僕は極度の捨てられない派でいつも困ってます。
昨年、一念発起してずっと大切にしていたもののいくつかを
売ってしまったのですが、やっぱりちょっと後悔していますし…。
物のない生活をするミニマリストなんて人達もいるそうですが、
羨ましくも思いつつ、なんでそんな生活ができるんだろうと
思ったりもします。
更新についてですが、
裏では時間をかけていろいろ考えたり手を動かしたりはしているんですよ。
このままフェードアウトなんてことはしないので、
その点は安心して頂ければと思います。