「ミッフィー管理会社がサンリオを提訴」の疑問
10月20日にこのような報道がありました。
・ミッフィー生みの親サンリオ提訴 著作権侵害と(47NEWS)
なんと、ミッフィーの著作権管理業務を行うオランダの企業メルシスが、サンリオの「キャシー」というキャラクターがミッフィーを模倣し著作権を侵害しているとして商品の生産停止を求める訴訟を起こしたんだとか。裁判はオランダのアムステルダムで行われていて、判決は11月2日予定とのこと。
感想としては、意外だなぁと思うのと、疑問に思う点がいくつか浮かんだのでちょっと書いてみます。
まず、「キャシー」ってキティちゃんのおともだちに当たる脇役キャラクターなんですが、グッズなんて言われるほど出てる? という疑問。僕もキティちゃんグッズに関して詳しくはないんですが、おともだちってキティちゃんのイラストでたまに見かける程度だと思うんですよね。知名度に関しても熱心なサンリオファンなら知っているでしょうけど、それ以外の人はまず知らないような存在だと思います。
続いて、なぜ今? という点。キャシーって、1970年代には既に存在していたはずなんですが、なぜ今になって問題になったんでしょうね。ひょっとしたら海外では最近になってキティちゃんのおともだちにスポットを当てた展開をしているんでしょうか。
あと、国内でのネットの反応を見ていると、昔サンリオが展開していた「リトルハニー」というミッフィーそっくりなうさぎのキャラクターを持ち出して、元々そういう企業体質だったのでは、という意見が書かれているのをちらほら見かけたんですが、これはちょっとサンリオが気の毒かなと個人的にはしました。だって、時代背景ってあるし…。もし、2010年に新しくあんなパクリキャラを堂々と展開されたら、そりゃあ大問題でしょうけど、40年前と現在ではその辺の倫理観って全然違うと思うので、今の価値観だけで判断してしまうのもどうかと思います。
ただそうは言っても、「キャシー」はもとより、キティちゃんだってミッフィーの影響を色濃く受けた存在だとも思うんですよね。
(『「ミッフィー展」-50 years with miffy-図録』朝日新聞社(2005) P20-21より)
参考までに1955年、誕生当時のミッフィーのイラストですが、最初は今と全然違う見た目なんですね。それから8年後に出版された絵本ではほぼ今と同じ雰囲気のミッフィーが完成されているんですが、そこに現在に至るまでの試行錯誤や洗練のされ方を感じ取ることができます。
かたやキティちゃんはというと、最初から完成型というか、今と変わらぬ無駄のないデザインで登場しています。
このキティの完成度ってやっぱり、ミッフィーがあってこそだと思うんですよね。ミッフィーとキティちゃんは、直接的に似ているキャラクターではないけれど、線の太さや丸みの付け方、全体のバランスなど、デザイン的な共通点がありますもん。
ただ、すべての創作物は過去の創作物の模倣から始まるわけで、大切なのはそこにどんなオリジナリティがあるかということです。
そんなわけで、「キャシー」のオリジナリティについて、オランダの裁判所がどう判断するのか、そこに注目しながら静かに見守っていきたいと思います。
~おまけ1 「ムスティ」について~
今回の件で改めて気になったのが、「ムスティ」の存在。ムスティはベルギー生まれの絵本のキャラクターなんだけど、個人的にはキャシーなんかよりもムスティの方がはるかにミッフィーに似ていると思うんですが、なぜ共存できているんでしょうか。
ムスティの日本版サイトによると誕生は1960年代と書かれているけど、確かミッフィーよりも古いキャラだったような…と思っていたら、英語版WikipediaのMustiの項には1945年って書かれています(何が本当なのやら)。あと2004年に日本のブロガーがムスティとミッフィーとキティの類似性について議論したとも書かれてますが、結論は出たんでしょうか。気になります。
僕個人としては、キティとミッフィーには前述のとおりデザイン的な共通点があるとは思っているけど、キティとムスティの間にはそれがないので類似性は感じないです。
~おまけ2 サンリオは既に自粛している?~
◇[本]SANRIO MEMORIES(2010.8.16)
上記のエントリーでサンリオの50周年記念ブックを2種類買ったことを書きましたが、せっかくなので改めて確かめてみると、な、なんと2冊ともキャシーが紹介されていないんですよ!
(『Sanrio 50th Anniversary Official book』サンリオ(2010) P8-9より)
(『SANRIO MEMORIES』サンリオ(2010) P16-17)
他のおともだちは紹介されているのに…。公式サイトでも紹介されていないし、ひょっとしてサンリオ的には裁判で結論が出る前からキャシーの存在はなかったことリスト行きになってるの!?
前からこんな扱いだったっけ? と思って振り返ってみると、昨年キティのおともだちについて取り上げたことがあったのを思い出しました。
◇ジョーイのガールフレンド(2009.1.21)
これです。思わず画像(Amazonより)も貼り付けちゃいましたが、この「雛ぬいぐるみ」というグッズ、キティのおともだちが揃ってぬいぐるみになっていて珍しい! ということで、”ねずみのジョーイのガールフレンド”という微妙な立ち位置の女の子にスポットを当てた上で紹介したんですよね。
後にこの女の子はジュディという名前だということが判明するんですが、キティのともだちのともだちという立場上、やっぱり扱いも中途半端で公式サイトには相変わらずいないし、50周年記念本でも片方でしか紹介されていないというちょっと不遇な子なんですよね。そんなジュディに気を取られてしまい、まさかもっと不遇な扱いを受けている子が発生しているとは全く気づきませんでした…。
当時のエントリーを見ると、「ねずみの女の子だけが公式サイトで紹介されていない」とあるので、この段階ではキャシーもサイト上で紹介されていたはずなんですよねー。いつの間に削除しちゃったんだか。
◇「ハローキティ検定」の対策本が登場(2009.7.25)
◇[本]HELLO KITTY MEMORIES(2009.10.14)
ちなみにその間に発売されている上記2冊の書籍も確認してみると、「ハローキティ検定」ではキャシーについての問題が出題されていて、「HELLO KITTY MEMORIES」ではキャシーの他に、キャシーのおかあさんとおとうさんまで紹介されているのでこの段階ではまだ封印されていなかった様子です(ちなみに親まで紹介されていたのはおともだちの中ではキャシーだけなので、かなり待遇がよいと言えます)。
そんな感じで憶測してみると、昨年~今年の段階でメルシス側はサンリオに何らかの要求をして、サンリオがある程度譲歩したけど決裂し、提訴に踏み切ったという流れなのかな、という気がしてきました。
何にしろ、大人の事情でいなくなっちゃうキャラクターというのは寂しい限りなので、なんとか落としどころを見つけて円満に解決してほしいものです。
ディスカッション
コメント一覧
「ぱんくんち」はSan-Xの「たれぱんだ」と「こげぱん」とは無関係だとお考えですか。私にはリトルハニーの頃と何も変わっていない体質だと思えるのですが……
こんにちは。反応ありがとうございます。
サンリオの「ぱんくんち」をこのサイトで最初に紹介した時には
”妙な既視感を感じる”とは書きましたが、
でも問題視しなければならないレベルで
「たれぱんだ」や「こげぱん」に似ているかと聞かれたら、
似てないと思うし、
あとよく言われているサンエックスの「まめゴマ」も
「少年アシベ」のゴマちゃんとは全然別のキャラに見えます。
実際にサンエックスはサンリオを訴えていないし、
「少年アシベ」の作者もサンエックスを訴えていないので
両者とも似ていないと思っているんでしょう。
知らないってことはないと思うので。
ただ、見る人によってはどう考えてもパクリとしか思えない
という方がいてもおかしくはないと思います。
結局は著作権の問題ってそういう微妙な世界の事柄ですからね。
本当は僕なんかが偉そうに書いてはダメだったんだと思います。
なので、僕の文章で気に障ったとしたらごめんなさい。
こういう問題って人それぞれ感じ方が違うので難しいですね。
今後はもうちょっと慎重に取り上げようと思います。
訴訟を可否の基準にする人がいらっしゃいますが、これは大きな間違いです。訴訟には大変な労力と場合によってはそれなりの費用が必要で、勝った場合でも対費用効果、敗けた場合の損失などいろいろな考えなければならない要素があります。よほどの勝算がない限り警告書を送って注意するにとどまる場合が多いです。
(リトルハニーはその業界の知り合いからの情報では当時警告書を受け取っていると聞いています。このキャラクターのみサンリオの歴史から抹殺されている事実からもこの情報には信憑性はあると思っています。)
サンリオのような大手が「ぱんくんち」のようなものを堂々とやるのはサンエックスを見下した愚挙だと思います。まるで「できるもんなら訴えてみな。」と言っているようです。自社キャラクターを制作管理する世界の一流企業は絶対にこんなことはやらないでしょう。
今回の騒動で感じるのは、パクリに対して日本の消費者が自国の企業や個人に非常に寛容なことです。韓国や中国の企業が同じことをやったらどう思うでしょうか?はたして本当に同じ基準で考えているでしょうか。
おっしゃる「妙な既視感を感じる」というのは非常に重要な感覚だと思います。この感覚で私にはその商品はアウトです。絶対に購入対象にはなりませんし、対外的にも堂々とパクリ商品と言って軽蔑するでしょう。あえてそれに法律的基準をもちだして、別の視点から許容範囲だと許容することに意味はあるでしょうか。
なるほどー、読ませて頂きましたが、結構価値観が違うみたいです。
以下、ネットの片隅にはこんな考え方のやつもいるんだなぁ、
という程度に思って頂ければ幸いです。
まず、「ぱんくんち」についてですが、このキャラについて
“妙な既視感”を抱きつつも「たれぱんだ」や「こげぱん」とは
”似ていない”と思ったのは、僕の主観によるものです。
主観についての根拠を正確に書き表すのは難しいため、
前回のコメント欄では
当事者以外から見て唯一とも言える客観的情報として
「裁判沙汰になっていない」
という事実を書き加えましたが、
これをもって、裁判になっていないんだから問題ない!と
主張したいわけではありませんでした。
(ただ、僕自身がこうした著作権の問題を眺める上で
訴訟の存在とその結果を
最も重要な要素だと捉えていることに間違いはありません。
著作権の権利侵害というと親告罪ですし、
当人同士が黙認、もしくは問題ないと思っているかもしれないものに
外野で判断を下すのは変だと思う考えが根底にあるからです)
もちろん裁判になろうとなかろうと、
倫理的に疑問を感じる一線はあって、
例えば「たれくま」とか、「こげごはん」みたいな
キャラクターをサンリオが発売したとすれば
さすがにそれはどうかと感じただろうと思います。
これだと、そのキャラクターにとって最も大切な
独創性の部分がそっくり借り物になっちゃってると思うので。
見た目の既視感よりもキャラクターの個性の部分に
判断の基準を置きたいというのが僕の考え方なんですが、
この辺の線の引き方が人によって違うんだと思います。
また、パクリに対して日本の消費者が自国の企業や
個人に非常に寛容だということに疑問をお持ちのようですが、
これについては全くの同意見です。
あの中国のテーマパークの件にしても、日本にだって
似たような例は探せばあるだろうと思いながら見ていました。
今回の件ではサンリオが国内の企業だからとか、
特別思い入れがあるから肩を持っている、というつもりはありません。
というより、国内外の問題に限らずこのサイトでは
「これはパクリだろ」と指摘した記憶があまりないんですよね。
どっちかというと、「これは問題ないのでは」と書く方が多いです。
そのため、見る人によっては
パクリに関するハードルが全体的に低いと思われるかもしれません。
ではなぜそういうハードルになるのか、についてですが、
これは本文中に
「すべての創作物は過去の創作物の模倣から始まる」
と書きましたが、どんなキャラクターだって、
無からいきなり生まれたものなんかなくて、
過去に創られたキャラクターたちがいたから生まれた、
という考え方を大切にしたいからなんだと思います。
模倣についてあまりに潔癖すぎると新しい創作が生まれにくくなって、
つまらない世界になってしまう気がするんです。
極端な話ですが、
耳の大きなネズミのキャラクターはミッキーしか許されなくなったり、
目が飛び出ているカエルのキャラクターはコーワのコロちゃんしか
許されなくなるような気がして不安になってしまうんです。
なので「たれくま」みたいなあからさまなものや
悪意のあるものでなければ存在していいと思うし、
その方が楽しいと考えます。
この手の疑惑は謂われのないものも含めて、
会社が大きくなるにつれて増えていくと思うんですが、
その中で、サンリオだけが突出して倫理観が欠如しているとは思えない、
というのが現段階での率直な感想です。
私こそ自分の意見を振りかざしっぱなしで申し訳ありません。ただ、消費者が厳しい目で見ないと安易なコピー商品が市民権を得て増長してオリジナルを駆逐しようとするなんてことが起きかねません。消費者が寛容だと企業は楽なものです。
多分、デザインという作業をやったことがある人ならわかると思いますが、オリジナルの絵を変化させれていけば新しいキャラクターに変化させるのは無から生み出すより相当に簡単です。ブルーナ氏の作品はシンプルな線と色で描かれているため、コピーをすることは簡単ですが、そのオリジナルを感じさせないようなキャラクターに仕上げるのは至難の業です。テイストをできるだけ残したまま、訴えられない程度に変化を加えていくのは果たして創作でしょうか。最終形のみを比較して「まるまるコピーしなければ何でもOK」だとすれば、コピーし放題ですね。
グラフィックデザインを生業としている私に言わせればサンリオの初期キティはオリジナルのブルーナ氏のテイストを残しすぎています。ちょっと形を変えて花びらを5枚から6枚にすれば模倣にはならないんじゃないか程度の認識で作られたものです。売り上げが上がるにしたがってそこからは離れるように少しずつ変化を加えて努力をしているようですが。
私は音楽、アートなどの模倣には敏感な方だと思います。模倣の認識なしに結果的に似てしまったということは確かにあるでしょうが、明らかに範囲を逸脱した模倣商品を見たり、聞いたりすると悲しい気持ちになります。
模倣疑惑は通常は会社が大きくなるにつれて商品化前の何重もの厳重なチェックで少なくなるのが普通ではないでしょうか。サンリオも当然でそうあるべきす。「ぱんくんち」が社内の何重ものチェックを通ったキャラクターであるとすれば、それがまさしくサンリオの体質と思われても仕方がないでしょう。たとえ偶然の産物であっても「いらぬ疑惑をもたれかねないデザインはボツ」とするのが常識です。
他の会社と比較してサンリオだけが突出して倫理観が云々はどうでもいいことです。サンリオについてのみの私の主観です。
「これは問題ないのでは」とは「模倣かもしれないけれども、この程度ならいいんじゃないか。」それとも「模倣ではないんじゃないか。」のどちらでしょうか。
こちらこそまとまりのない長文で申し訳ありません。
まず、「これは問題ないのでは」の真意についてですが、
僕もコピー商品の氾濫を望んでいるわけでも、
少々のパクリくらい大目に見ろと主張したいわけでもありません。
ここまでの流れを整理しますと、
本文にあるサンリオの企業体質についての記述で、
「昔はまずかったかもしれないけど、今はそうでもないのでは」
といった内容の部分に対して、
「サンリオは今なおぱんくんちみたいな作品を作ってますよ」
というご指摘だったと思います。
それに対してこちらから、
「え、ぱんくんちは問題ないと思うけどなぁ」
と返信してしまったために、
話がこじれてしまったんだと思います。
ここでひとまずぱんくんちから離れて、
キティとブルーナさんの作品について目を向けてみますと、
これはララさんとほぼ同意見で、
キティはブルーナさんのテイストを残しすぎていると感じています。
今回の騒動についてのネット上での反応を見ていると、
「ミッフィーってサンリオのキャラだと思ってた!」
という書き込みもちらほらと見かけました。
僕も、10年以上前のことですが、
「ミッフィーってキティに似てるよね」
と聞かれたことがあって、そのときは
「いやいや、ミッフィーはキティが生まれるずっと前に
オランダのブルーナさんっていう人が生み出したキャラクターで
真似してるのはキティの方なんだよ」
と、一生懸命説明した記憶があります。
こうした状況を見る限り、
キティとブルーナ作品との関係は
まだ不健全な状態にあると思いますし、
ブルーナさんの気持ちを考えると胸が痛いです。
改めて今回のブログの内容を振り返ると
ちょっといやらしいところがあって、
中立っぽく装いながらも、肝心な部分はぼかしてあって、
やっぱりサンリオ寄りの目線になっちゃってたんですよね。
そこはしっかり反省したいと思います。
創作物というのはどんどん螺旋階段を登っていくようなイメージで
過去の創作物を参考にしながらも
そこに十分なオリジナリティーが上乗せされていなければ
ならないと思っています。
これが単なる模倣の繰り返しになってしまうと
劣化コピーが氾濫するばかりで
螺旋階段が成立せず、文化の崩壊に繋がってしまいます。
僕は「ぱんくんち」について
単なる模倣ではなく、螺旋階段の1段に足りうる
十分なオリジナリティーを持った創作物である
という気持ちに今も変わりはないのですが、
その判断は消費者としても甘いし、
これにOKを出したサンリオも甘いというご指摘だと思いますので、
この点はもう一度時間を掛けて考えていきたいと思います。
まだお互い言い足りないこともあるかもしれませんが、
これ以上続けると、話が広がりすぎてしまう気がするのと、
ここまでの流れで、ブログをご覧になった方の
考えるきっかけにはなるのではと思い、
勝手にまとめてしまいましたがどうでしょうか。
ご理解いただきありがとうございます。
同感です。
オランダの判決は予想通りでした。サンリオとしてはここでおとなしく従ってしまうと、同様の訴訟が他国でも起こってしまう可能性もある訳で、判断は難しいところだでしょう。サンリオが受け入れず本訴訟となって、この問題が本質がもっと考えられる機会が増えることを期待しています。
キャシーが似すぎって話なのにキティがパクってるって言いだして笑いました。
この訴訟は和解したようです。さらに双方が準備した訴訟費用は使われなかったので東日本大震災基金に寄付されたということです。原告も被告も大人な国だと思います。ところでキティーもキャシーも口が省略されています。外観はリアルウサギには似ているということで違法性のない共通範囲だと思います。世の中には全く瓜二つなのに「オリジナル作品」と嘯く人種もいます。キティーやキャシーは口を省略してもなお、バランスの良い造形になっており新たなキャラクターと言えるでしょう。そう、決定的な違い、口がない、ということです。そして目や鼻、顔の外形の絶妙なバランスです。これがキャラクターの創造というべきものです。