ある日僕は、ふと汽車に乗りこみました。
知らない場所で一人暮らしを始めようと思ったのです。
ゴトンゴトン、ゴトンゴトン。
揺れる車両の中から、次々に現れては去ってゆく
外ののどかな風景を眺めていると、
見知らぬネコが目の前にいました。
「ここよろしいですか」
と言うや否や、僕のむかいの空いている席に腰かけました。
「これからどちらへ行かれるのですか」
ネコは世間話を始めました。
でも、世間話のわりには、名前や性別(見てわかんないのかな)など、
やけにいろいろと聞いてきました。
そして、僕が今から一人暮らしを始めようとしていること、
住む家をまだ決めていないことを伝えると、
ネコは、その無計画な行動に少しあきれたような表情を
浮かべながら、こう言いました。
「知り合いに、部屋を貸している人がいるから、
ちょっと電話して聞いてみてあげるよ」
かくして僕は、見知らぬネコのお世話になることになりました。
駅に到着し、僕は汽車から降りました。
もう日が沈み、すっかり暗くなっていました。
ここは小さな森の中の村なので、
駅前にはお店もなく、ちょっとした広場があるだけです。
階段を下りて、広場へ出ると、人影がありました。
「あー、ちょっと。部屋を借りたいっていうのは、おまえさんだなも」
人影は、僕を呼び止めました。
よく見ると、タヌキでした。
タヌキは、この村でお店をやっているたぬきちという者だと
名乗りました。ネコから連絡を受けて僕を待っていたそうです。
たぬきちさんは、
「ちょうどよかっただなも。今、空いている家が4つあるから、
これから案内するんだなも」
と言うと、スタスタと歩き始めました。
この村の人って、みんな「だなも」って言うのかなぁ、、、
なんて、ちょっと不安になりながら、僕は後をついていきました。
たぬきちさんに案内された場所には、
4つのかわいいお家が並んでいました。
好きなのを選ぶといいようです。
僕はじっくり4つのお家を見て回りました。
内装はどれもシンプルというか、質素というか、
やっぱり何もないので寂しい感じでした。
結局、青色の屋根のお家に決めると、
やっぱりたくさんのお金を請求されてしまいました。
法外な額ではないのですが、
僕がちょびっとのお金しか持ってなかったので、
払えなかったのです。
でも、たぬきちさんは、そんな僕を見るなり、
しばらくお店で、バイトとして雇ってあげると言ってくれました。
やさしいタヌキだなぁ。
こうして僕は、なんだか知らぬ間に住むところを
手に入れ、新しい生活をスタートさせることになったのです。
これからどんな毎日が始まるのか、
わくわく、ドキドキしてきます。
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