かいそう

月を眺める
「言っとくけど、こんなことになったの、10円くんのせいだからね」
 
「あー、はいはい、わかってるよ」
 
ぼくの大事な相棒、ロケットのタコチャン号の燃料が切れかかってしまい、
見知らぬ星に不時着し、タコチャンの食べられそうなものを探すことになったのでした。
まあ、僕が予備の燃料を積んでなかったのが悪いんだけど、
それにしてもひどい言いようだなぁ、タコチャンは。こっそり悪口言ってやろ。
 
「このタコ…」
 
「え? なんか言った?」
 
タコチャンは地獄耳でした。
 
 
食べもの
別々になって食べものを探すことになりました。
あ、この変なくだものみたいなのは食べられるかも!
そう思って手を伸ばした瞬間、誰かが横取りしたのでした。
 
シュタ!
 
「ヨソモノには渡すものか!」
 
現地の子
そう言って現れたのは、どうも現地の子のようでした。
 
「それ、君のものだったの。ごめんね」
 
「いや、オレのものではないが、おまえにはやんねぇ」
 
「…だったら別にいいよ、他の探すから」
そう告げると、現地人くんは首を大きくぶるんぶるんさせてこう言いました。
「この星にあるものはみんなやんねぇ!
あっちに変な形ののりものあったの、あれおまえのだろ。
あれに乗ってさっさと帰れってこった」
 
「いやいや、乗って帰ろうにも燃料がないから…」
 
と言おうとしたところ、現地人くんは少し離れたところに移動していました。
 
「やーい! これが欲しいなら奪ってみろ!」
 
なんて言ってるけど、別にくだものは探せば他にもありそうだし、
別の場所に移動しようとしたところ、
 
「おい、こっちだよ! どこに行こうとしてるんだ」
 
なんて言うわけです。
どうも追っかけてきて欲しいみたいなので、後を追ってみることにしました。
 
………。
 
すぐに追いついてしまいました。
手を伸ばせば捕まえられそうなところまで来ても、
現地人くんはまだ威勢のいいことを言っています。
 
「おまえ、見かけによらず速いんだな。
でもこっちには必殺技のスーパーダッシュが、うわぁあぁぁ」
 
急にいなくなったかと思ったら、ぼくの視界もおかしくなって、うわぁぁ、
2人して地面の穴に落っこちちゃったのでした。
最近、穴にはまることが多くて困ります。
 
 
 
この穴はかなり深く、水のない井戸のようになっていました。
中では先客に
「おまえが追っかけてくるからだぞ」
なんて言われたけど、そんなのぼくのせいじゃないし。
ここからどうやって出ればいいのか、ちょっと考えても思いつきません。
 
ぐるる~
 
おなかが鳴ってしまいました。
すると、現地人くんが半分に割ったくだものを差し出すのでした。
「異星人でも腹減ると鳴るんだな」
なんて言われながら、受け取りました。
2人
くだものはやけにすっぱかったけど、おいしかったです。
タコチャン、急にぼくがいなくなって心配しているかな…。
 
「あ、あれ」
 
現地人くんが指さした方を見上げると、
穴の入口から見える空に、ちょうど月がやってきていたのでした。
穴の入り口

なんだか、現地人くん、満足そうなアホづらで眺めています。
 
ぼくはそんな現地人くんを眺めながら、
今のこの時間、割と悪くはないな、と思ったのでした。
悪くない

かいそう

「ぼくのことなら、きみのノートの14巻25ページに書いてあるよ」
 
 
 
ぼくはいろんな星に旅したことがあるけど、
現地の子と仲良くなることってあまりないのです。
でもたまには仲良くなることもあって、
今日の話も、そんな遠くの星で暮らす友達の話です。
 
 
遠くの星
 
その星では2種類の人が暮らしていて、
片方の人達は地面で忙しそうに生活しています。
そしてもう片方の人達は空中に漂いながらのんびりと暮らしています。
ぼくの友達、ウオットくんは空中で漂いながら生活する方の人です。
 
空中で暮らす人はみんな日記を付けるのが好きで、
だいたいの人は手にノートを持っています。
久しぶりにウオットくんに会うと、決まってぼくのことは忘れているので
前にぼくが会いに来たときのことが書かれているノートのページ数を、
ぼくが教えてあげるのです。
ウオットくんは、そのページをチェックしたあと、
 
「あ、ホントだ。会ってるね。また会いたいと思っていたんだよ~」
 
って、言ってくれるのです。
 
 
 
 
 
 
ウオットくん
 
ウオットくんとの最初の出会いは、
ぼくがこの星に仕事で来ていた時のことでした。
その時ぼくは大事なモノをなくしてしまって探していたら、
ウオットくんが一緒に探してくれたのでした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ウオットくんに何度目かに会ったときのこと、こんな話になりました。
 
「10円くん、きみに会うのは何回目だっけ~?」
 
「4回目だよ」
 
「だったら、もういいかな…。お近づきのしるしに、
この僕のこと、この星のこと、聞いてみる~?」
 
「う、うん」
 
そう言ってウオットくんは話し始めました。
この星の住人は本当は1種類だってこと。
宙に浮かぶ住人たちも、
昔は地上で暮らしていたこと。
宙に浮かぶ住人たちは、
地上の人から「あきらめびと」と呼ばれていること…。
 
「その言葉どおり、地上での暮らしをあきらめた人たちのことなんだよね」
 
と教えてくれました。
地上での暮らしに行き詰まりを感じた住人たちは、
自ら意識を解き放ち、自分のからだを捨てるのです。
放たれた意識は、ふわふわしたもうひとつのからだをかたちづくり、
第2の生活を始めます。
それが「あきらめびと」と呼ばれる人達になります。
 
あきらめびと
 
あきらめびとになると、今までのようにものを食べなくても
生きていけるようになるんだそうです。
(なのでみんな働かなくなります)
そして、ぷかぷかと空中に浮かんでいられるようになります。
そしてそして、新しいことをなにひとつ、覚えられなくなるんだそうです。
 
「その日に起こったことなら覚えていられるんだけど、
寝て起きるともう忘れているんだ~。
すべてをあきらめたあの日までのことなら覚えているんだけどね。
だからあきらめびとになると、どんなにめんどくさがり屋さんでも、
日記をつけ始めるようになるんだ~。
じゃないと、今までどんなことがあったのか、全然わからなくなるからね。
日記は明日の自分へのメッセージなんだよ」
 
と、ウオットくん。ちょっとかっこいい気がしました。
 
「そうして朝起きたら、みんな日記を読み返すんだ~。
へー、こんなことがあったのかってね。
そうしている時間は、すごく楽しくて、みんな好きなんじゃないかなぁ。
中には日記を読むだけで、1日のほとんどを使ってしまう人もいるらしいよ」
 
「地上の人達もいつかはみんな、あきらめびとになるの?」
 
「いや、ならない人も多いよ。
地上の人たちの多くは、僕たちのことを
脱落者だって軽蔑しているからね。
でもこうやって、ぷかぷか浮かんで
その日暮らしするのも悪くないと思うんだ~」
 
しばらく間を置いて、ぼんやり空を眺めながらウオットくんは言いました。
 
「君みたいに会いに来てくれる人もいるしね」