抜粋して掲載しました。
糸井重里 久しぶりに大いに語る
『MOTHER3』が難産すぎて
『4』まで気持ちがいかない
―― いよいよ『MOTHER3』の質問に入ります。制作の状況はいかがなんですか?
糸井 僕のやるべき仕事としては、ときどき作業の間に入って、細かいセリフを入れていくだけなんです。大まかに言うと、すでに鉄骨ができてて、コンクリートも固まっているんだけど、中でしっかり人を動かさなきゃならないんです。
―― 内装はいかがなんですか?
糸井 内装もほぼできてます。スーファミの時代だったら、もうとっくに発売ですよね。たとえばの話、誰かが走って急カーブ切って曲がるときに、「もっといい角度、つかないのかよ」なんて言いはじめるとキリがなくなるんです。そーいう作業の連続なんですよ。だからロールプレイングゲームには、もしかしたら「3Dは善し悪しだったかな~」なんて気持ちがありますね。「じゃあ、何にするんだよ?」って言われてもね。お客さんが「3Dに決まってる」と思ってるところに出すわけですから、しんどいんですけど…。この調子だと、もう『4』は作れないですね。同じようなことを続けてると開発者のなかから首吊りがでますね~。
―― 『4』の構想はあるんですか?
糸井 とにかく『3』を出さないとね~。『3』は『2』を作ってるときに構想ができたんだけど、『3』があまりにも難産だから、『4』まではキモチが行かない。それに、続編の話を言ったら怒られますよね(笑)。
―― 『3』のシナリオが完成したのは、確か一昨年の春…。
糸井 もうとっくですよ。もうできちゃってましたからね。
―― N64が出たとき(1996年)の発売予定タイトルで、まだ出ていないのは『MOTHER3』と『マリオRPG2』だけなんです。
糸井 RPGって弱ったもんですね。あと、長く遊ばせたいっていう脅迫観念があったからいけないんですよね。もっと、もう楽しければいいじゃないって。でも、3日で終わるにしたら、舞台設定なんかにお金をかけすぎですよね。その辺のバランスが難しいですね。
今年の夏には『3』を
発売したいけれど…
―― ところで、いつくらいに発売できそうですか?
糸井 開発に関わっているみんなは、3月にはメドがついてるって言ってるんです。で、「そうしないとダメよ」って…。まー、何回も同じこと言ってるんですけどねぇ。岩田さんが次のハードの仕事のために、お尻に火がつきはじめているから、本格的に『MOTHER3』の面倒を見られる時期って限られているんです。だから、岩田さんが『3』をさわれるうちに、なんとか決着をつけたいですね。でも、まあ、オオカミ少年だからな~(笑)。夏には出したいんですけどね~。
―― ほう!(笑)
糸井 ゲームのカタチになっている部分は、もう全部見てるんです。あとは、イベントの作りこみとかバランスの調整とか…。そこに時間がかかるんだけどね~。
―― 前作では、最終段階で、糸井さんが現場に張りついて、ゲーム画面を見ながらセリフを入れていったとか…。
糸井 最後の仕上げはセリフを書きまくるって感じですね。いまはもう1章、2章は完全に埋まってるんです。章だてになっていますから。
―― 確か、全部で12章ですよね。
糸井 12章は減らさないとダメかもしれないですね。
―― 主人公は5人とか…。
糸井 どれを主人公といったらいいかわかんないんですけど…。1人と言えば1人かな。
―― リュカですか?
糸井 そうかな。
―― 主人公の双子の兄弟である、リュカとクラウスが登場する小説があると聞いたんですが。
糸井 はい、これは「悪童日記」という小説の主人公、双子の兄弟に誠意を表してというか…。
―― どんな小説なんですか?
糸井 「悪童日記」ってRPGみたいな小説で、とても見事なんです。その本に、すごいインパクトを受けて…。おもしろいよ~。作者は女の人で、アゴタ・クリストフという人。早川書房から出てます。3冊シリーズの1冊目です。
―― 章立ての変更などによって、前回のスペースワールドのときと比べて、内容が変わっていると思った方がいいですか?
糸井 いや、そんなに変わってないです。ただ、見た目の表現は上手になってますよね。それは開発ツールがよくなったり、『ポケモンスタジアム』を作っていた、絵を描くチームが大量に動員されて手伝ってくれたので…。
―― アシュラさんの…。
糸井 そう。アシュラさんの率いるチーム。あのモデリングチームはやっぱりすごいもんですよね。でも、ホント、夏に出したいね~。おもしろいと思うんだよ。ただ、いまは偉そうなことは言えないですね~。
―― 『MOTHER3』はもう出ないというウワサもありました。
糸井 最悪の事態を考えると、「出ない」という可能性もあり得ると思いますよ。もう経営としては破綻してますからね~。
―― そんなことをおっしゃらずにがんばってください。
糸井 ごめんね~(笑)。ゲームが1人で3日でできれば問題ないんだけどね。
FC版『MOTHER』を
GBで出せるといいね
―― 酒井省吾さん(ハル研究所)が作った音楽もいいですね。
糸井 あの完成度はいいよね~。
―― 以前、曲を聴かせていただいたときに、『MOTHER3』はRPGの王道を目指しているんじゃないかと感じたんですが…。
糸井 ある意味そうです。堂々としていて…。それに、『MOTHER3』は「泣く」がキーワードですから。だから、MOTHERっぽく、ふざけたセリフを入れるのはイヤだったですね。「ゲームをやりながら泣けちゃった」という部分を何カ所も作りたかったんです。
―― ドラゴが泣かせるとか…。
糸井 かわいそうなんですよ~。
―― あと、泣けるエンディングのさわりだけでも…。
糸井 エンディングは泣けるを超えて、真っ白になると思う。
―― 酷い~って感じ?
糸井 酷いです(笑)。「逃げたな」って言われるしれないけど、それはもう確信犯だから。ご満足いただけなければ謝るしかないけど、値段分は楽しめた最後の最後ですから…。「あーっ」て感じですね。
―― 『豚王の最期』というサブタイトルに、その意味が?
糸井 うん、そういう意味的なものはとぱらいいたいんですよ。つまり、理由の説明できない感情ってあるじゃないですか。そのようなことをゲームの中に入れたかったんです。酷いな~(笑)。たとえばさ、徹夜して、仮に深刻な話をしながら外が明るくなっていったときに、まぶしいじゃない。そんなとき、何かわかんない気持ちになるじゃないですか。で、深刻な話とは関係ないところに「世界がある」って感じになりますよね。小鳥がちゅんちゅん鳴いて…、あんな気分って、意味はないですよね。
―― ところで、『MOTHER』のFC版を「ゲームボーイで出して」って読者からのハガキが多いんですが。
糸井 ありますねー。誰かやってくれるんだったら、任せますよ。『1』を遊びたいという人はものすごく多いんですよね~。
―― 中古ショップでもなかなか買えないんです。パッケージまで揃っているのってないですね。
糸井 そうみたいですね。ということは手放さないってことで、うれしいことですよね。いっぱい売れたはずなんだけどね。誰かが移植してくれれば、僕はぜひ出してほしいですけどね。自信たっぷりで「1人でやります」っていう人がいいですね。そうねえ、欲しいねえ。
爆発的なアイディアが
ほしい『キャベツ』
―― お次は『キャベツ』です。これも結構時間がかかってますよね。
糸井 ごめんなさい。『キャベツ』についてはお話しできないんですよ。
―― 『キャベツ』って、実際にキャベツを育てるゲームだと勘違いしている人がいるので、内容的な話をちょこっとしていただけませんか。
糸井 一言で言うと、飼育ゲーム…というか、「友達づきあいゲーム」なんです。このテーマは変わらないと思います。
―― じゃあ、開発は進んでいるんですね。
糸井 うん。でも、『キャベツ』に関しては、爆発的なアイディアがほしいんですよ。いま、自分でも欲求不満なとこがあって、やれいばおもしろいんだろうなと思っても、「バーンと行かないな」っていう気分があるんです。近いうちに、そのような要素が足されたときに、「ウォー! できるぞ!!」って、仕上げに向かって走れると思います。そのあたりは、ゲームシステムじゃないところから生まれるかもしれませんね。
―― もっと、具体的に。
糸井 かっこいいゲームにしたいんですよ。いま、かっこいいってのはアニメ絵とかって言われるじゃないですか。でも、美術の伝統って、大昔からずーっとあるものなんですよ。だから、『ドンキーコング64』を見たときに、「絵画的教養が全然違う」という感想を言ったことがあるんです。やっぱり変な、すごい人が絵を描いているらしいですよ。『キャベツ』でやりたいのはそのようなことではないんだけど、それに匹敵するような、「絵ってこーいうもんだよ」って、画像の表現でみんなと違うことをやりたいんです。
―― 『キャベツ』のタイトルが登場したのは、64ドリームでの糸井さんのインタビューがはじめてだったんですよね。
糸井 そう。でたらめ言ったら、定着しちゃったんですよね。うん、覚えてるよ。
―― 『キャベツ』は糸井さんと宮本さんと、もうひとり、まだ発表できないクリエイターと…。
糸井 それに、プログラムは岩田さんがやっています。宮本さんも楽しみにしているゲームなんで、早い段階でなんとかしたいですね。
―― 糸井さんは、ハル研の作品にも関わってらっしゃいますね。たとえば、『スマブラ』のタイトルを決めたりとか…。
糸井 うん、それと最初のところね。机の上でっていう…。
―― キャラを人形にするという設定ですね。あと、他に関わっているものはありますか?
糸井 僕、ハル研の役員をやっているんですけど、人から言われて、「ああ、そうだった」ってカンジなんです(笑)。でも、マークを作りましたね。
―― 『バス釣り』のオープニングに出てくる「犬たまご」ですね。ずいぶん長い間、構想してたとか。
糸井 そう。あれ20年くらい暖めていて、イメージにあう会社をずっと待っていたんです。
―― それが、ハル研だったというわけですね。