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イラストレーターで漫画家、またある時は会社の取締役、他にもいろいろな顔を持ち
神出鬼没なヒョウ柄男(!?)として知られる伊藤紅丸さんへのインタビュー。
伊藤アシュラさんといった方が有名なのかな。

伊藤さんは64版「MOTHER3」ではメインアートディレクターを務めていて、
背景、キャラクターなど、ビジュアル的な部分を統括されていた方です。

これは、1997年のE3開催時、Nintendo of Americaが開催したパーティー会場にて
行われたインタビュー。64DDだった頃の『MOTHER3』のイメージが
かなり詳しく語られています。














MOTHER3は64DDによって
こんなに面白くなるよ!



主人公のひとり、リュカのイメージが大きく変わりましたが…。

前のリュカって僕に似てるんですよ…(笑)。それでスタッフの間から「いやだっ!」っていう声があがりましてね。とくに糸井重里さんが「いやだっ!」って、「もっと正攻法の主人公に変えてくれ」という声があがったものですから描き直したんです。

そういえばリュカはウエストバッグを下げていますね。

『MOTHER2』のときにも主人公がリュックを背負ってましたよね。これについては糸井さんのこだわりがあって、「(ピ~!)なんかのRPGやってて思うんだけど、拾ったアイテムどこに入れるんだよ!? 小型化されるにしてもなんか収納場所が欲しいじゃん」ということがあってバッグをつけたという経緯があるんです。ですからキャラ画面をよく見ていただくとグッズを入れるモノが用意されているのが分かるはずです。

『MOTHER3』に登場するキャラはどのくらいいるんでしょうか?

村人は250人ぐらいは出てきますね。ただ、これは仕出しのエキストラの数字も入れての話ですが(笑)。それに目安では90体のモンスターが登場する予定で、色なんかも変わりますから、実際はこの倍の数になるでしょう。

64DDの面白さを具体的に教えてください。

物語を進めていくうえで、必要なアイテムなんかがあったりしますよね。でも自分ひとりでは持ちきれない。そうしたときに自分の好きな場所においておくとか、隠しておくというようなことが64DDではできるんです。

あーそれ、とても楽しそうですね。

でもモンスターもそれぞれ行動様式を持つようにして、せっかく隠したアイテムを見つけ出して持ち去ってしまうと面白いですよね(笑)。それでそのモンスターをやっつけると隠し持っていたアイテムを返してくれるということができたりなんかして。う~ん、できるかなぁ。できるといいなぁ(笑)。あと、ここからはオフレコにしていただきたいんですが…。これは僕が提案しているんですが、大きな川が流れていて、渡れないような川だったとしますよね。まあ何らかの向こう岸に渡れるような手だてがあるんですけれども、そこでプレイヤーが(ピ~!)しておくわけです。そうすると(ピ~!)ということになって川を渡れるようになるわけです。それを仕掛ける場所もプレイヤーによって異なってくるんでしょうね。それにこれもオフレコなんですが、『MOTHER3』って(ピ~!)なゲームなんですよ。これは時間機能とも連動しているんですが、たとえばある土地に種をいっぱい蒔いておいて収穫期がくると収穫できるわけです。で、プレイヤーが場所をよく考えて種を蒔くようにすると(ピ~!)というようなことも可能になるわけです。いけね、アメリカだとどんどんしゃべりすぎちゃうな(笑)。でも、どうでしょう? このようなアイディアは面白いと思います?

めちゃくちゃ面白いです!

ですから以前から言っている、部屋を散らかすとそのままになっているということだけではなくって、64DDではいろんな楽しい仕掛けが可能になるんです。そういうことができると、画面のなかに自分だけのランドマークができるわけです。そうすると中古ショップに売れなくなるんじゃないかな、なんて考えているんです。

前に『MOTHER3』を中古屋さんに売りたくないソフトにしたいという話を聞いたとき、ある壁があってそこに自分の名前なんかをスプレーで落書きできるような仕掛けもあったりするんではないかと考えたんですが…。

スルドイですねぇ~。そのアイディアもらっちゃおうかな(笑)。あとこれは宮本さんに相談しないと言えないんですが、64DDならではの機能を使って、これホントにオフレコね、ホントに。条件がそろえば(ピ~!)ということもできるようになると思います。リュカっていうのは花と小鳥が好きな、とても気のやさしい子なんですよ。たとえばリュカが作る花壇、ガーデニングかなんかを自分なりのレイアウトかなんかでやって、自分だけの庭を作ったりもできるといいですけど…、僕はグラフィック担当なんで好き勝手いいますけど、仕様的には大変かな?(笑)

紅丸さんは全部のキャラデザインをやられているんですか?

いえ、モンスターのほうは『ウゴウゴルーガ』のアニメーションをやっていた青木俊直君というのが描いていまして、彼が作ったモンスターを僕がディレクションしてるんですね。ですからモンスターのデフォルメ手法がちょっと村人とは違っているということが、気づく人は気づくんじゃないでしょうか。でもそれが逆に狙いにもなっているんです。

『MOTHER3』はどのような雰囲気で制作されているんですか?

MOTHERチームというのはコミュニケーションがよくって、ひとりで考えるというより、スタッフみんなで集まって話し合いをしながら「こいつはこんなやつだよね」なんて言いながら作っているんです。

楽しそうですね。

いやー、どうでしょう(笑)。だから制作に時間がかかるとも言えるんですが…(笑)。それで「こんなことをやると面白いよね~」みたいなことを話し合いながらやっていって、で、それが最終的に糸井さんのフィルターにかかって、糸井さんのテイストに合うものをピックアップしてもらって、さらにそれをノベライズみたいなカタチにしてもらったものを、さらに僕らがそれを膨らませていくみたいなスタイルをとっているんです。総合的な、ギブアンドテイクのやり方でもって開発していて、いまのところうまくいってますけれども。

『3』では、どせいさんはどのように登場されるんでしょうか。

やっぱりどせいさんの村があります。どせい谷があるんです。今回はどせいさん以外にも“泣かせるキャラクター”が出てきますんで、楽しみにしてください。どせいさんはもともと糸井さんが書いた落書きがもとのキャラクターなんですが、新しい“泣かせるキャラ”も糸井さんの落書きから生まれたんです。あまり言っちゃうと楽しさが半減するので多くを語りませんが、いかにも糸井さんらしい性格付けをされたキャラクターになっていますね。

時計機能についてはどのように生かされているんですか?

時計についてはいま、もめているところなんですよ。64DDっていうのは自分で時間を設定できるんですよね。だからある時間にならないと出現しないモンスターがいたりしても、プレイヤーがカンタンに時間変更できちゃうんです。そういう時計機能はあんまり意味がないし、他の64DDソフトでたぶん考えられている時計機能の使い方というのが、たとえば12月25日になったらクリスマスのイベントが起こったりとか、そういうのは時計機能の一番おいしいところなんで、みんなやるんでしょうけど、“ひねくれた”MOTHERの取る道じゃないね、なんて話しているんです。ですからさっき書き込み可能なところで言ったみたいな、蒔いた種が時間がたつと芽が育っているみたいなことが時計機能を生かせるところだと思っています。

プレイを始めてから時間が経過することによって変化が現れてくるわけですね。

はい。それから同じ村であっても季節によって変化するというようなこともありますね。それに自分が及ぼした影響というものがそこに加わっていたりするんです。そのへんはできるといいなあなんて思っています。

糸井さんは『3』では期待を裏切るゲームにしますとおっしゃっていますが、テーマは大きく変わるんですか?

基本的なテーマは一緒ですよ。『1』と『2』をしっかり引き継いでいると思います。どうしてもMOTHERのファンを裏切るわけにはいかないので、そうなっているんですけれども、画風ががらっと変わりましたからねぇ。ですから今までやってきた人にはかなり違和感があると思います。まあ、2作までやっていない人でも楽しめますけれど、『2』までをやっていると、さらにもっと楽しめると思いますよ。

それはうれしいですね~。

今回アメリカにやってくるにあたって、『EarthBound64』もしっかり作っているって言っておいたほうがいいよなんてスタッフから言われているくらいで。N64ではじめて『MOTHER』をプレイする人が圧倒的に多いと思うんで、そういう人たちでも十分楽しめるようにするのが第一課題なんですね。それでこれまでやってきた人たちが「これ! これなのよ~!」(笑)って言って泣ける部分というのが随所に登場しますので楽しみにしてくださいね。

いや~、ホントに楽しみです。ところでアメリカではなぜ『EarthBound64』というのですか?

それは『MOTHER』というのがアメリカ人にはわかりにくいタイトルではないかという判断があったのと、アメリカ任天堂から出す初めてのRPGというのがあったんで、すぐに飛びついてもらえるようなタイトルにしたかったというのがあったんだと思います。地球をめぐって飛び跳ねるみたいなイメージというのが名前になったんだと思います。

最後に64DDが来年3月に発売延期になりまして…。

そうなんですか?(笑)僕のせいじゃないですよ(笑)。

それで…(笑)、64DDが遅れた理由に糸井さんが釣りで遊んでいるからだという見方をする人も一部にいるようですが、制作は順調なんですか?

64DDという初めてのハードということもありまして、そのへんでつまづきというのはちょっとありましたけれど、いまそれは解消されて順調に動いています。それで糸井さんが釣りにかまけていて制作が遅れているというのはまるで当たっていません。いや、あの人は釣りにかまけているのは確かなんですが(笑)。糸井さんが作ったコンセプトなんかは各スタッフに渡っていて、それを磨き上げてる最中なんです。人によっては釣りの合間に『3』を作っているんだろう、という人もいるかもしれませんが、実際は仕事の合間に釣りに行っているんです(笑)。ただ、ちゃんとスタッフを引っ張っていってくれているので、その点は問題ないと思います。もちろん重要なところでディレクションを与えるような役割があるのですが、糸井さんが仕事間にこないと何もできないってスタッフのみんなが口を開けて待っていると言うことではないので、あの人が釣りにかまけていても進行に影響ないんです。

今度のシナリオについて、糸井さんも「面白いよ、これは」っておっしゃっているようですね。

アイツの汚いところは…(笑)、アイツなんて言っちゃって、いけね(笑)。一番自分で酔っていて、最後のセリフというのを教えてくれないんですよ(笑)。逆にそこまで自分で気に入って酔っているということなんでしょうけどね。ですからその最後の、感動的なセリフを知りたいがために、スタッフががんばって仕事を進めているところなんです。

本日は楽しいお話ありがとうございました。








●The64DREAM1997年9月号(毎日コミュニケーションズ)より

どうでしたでしょうか。
なんで64DD版MOTHER3が(そして64DD自体もある意味で)頓挫してしまったのか、
このインタビューを読むと少しだけ理解できそうな気がします。
一言で言うと、

「そりゃ、収拾もつかなくなるよ」

というようなことを本気でやろうとしていたんですよね。
夢多き時代でした。
でもその夢はまた違ったかたちになり
花咲いていたりもするんですよね。

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